向こうから中年の男がやってきた。僕とすれ違う少し手前で、その男は道路につばを吐いた。とっさに僕は「みっともない」と感じた。きっとその男にとってつばを吐くのはみっともないことではないのだろう。なぜなら、誰でも自分でみっともないと思うことはしないだろうと思うからだ。
みっともないことは、人それぞれ違うのだろう。つばを吐くのをみっともないと思う人もいれば、そう思わない人もいるだろう。そうするとみっともないと思うことは個人個人で種類もレベルもさまざまなのだろう。他人の行為を見て、みっともないと思う場面や事柄が多い人は、多分みっともないことは何かを自覚しているから他人からみっともないと思われる行為に及ぶことは少ないのだろう。こう考えると、これは人間のセンスの問題といえるのかもしれない。
帽子をかぶったままで食事をする人をみっともないと思わない人は、同じようなみっともないことをするだろうし、爪楊枝をくわえたまま店を出てくる姿をみっともないと思わない人は、本人も爪楊枝をくわえて店を出るのだろう。テーブルに肘をついて食べる姿を見てみっともないと思わない人は、本人もテーブルに肘をついて食べるのだろう。平気で乗車の順番を待つ列に割り込む光景を見てみっともないと思わない人は、本人も平気で割り込んで電車に乗り込むのだろう。
人間としてのセンスのよさは、不断の努力でしか磨かれないし獲得できないときょうはつばを吐くその男を見て思った。その人間としてのいいセンスの要素の1つとして「みっともない」という基準があるようにきょうは思ったのであった。