かつてテクニカルライターとして僕にはソニーの取扱説明書の原稿作成をしていた時期があった。僕が関わっていたのはオーディオ部門の取扱説明書で、試作機をいじって取り扱いに関する原稿を作成するのが僕の仕事だった。打ち合わせや作業のためにソニー本社で作業をすることも少なからずあった。その時はソニーの社員と同じ制服が用意されていて着用した。三宅一生デザインの淡い小豆色のような制服は袖の部分が着脱式でベストにもなり、その頃は目新しかった。世界でもトップレベルの企業の先見性のようなものを感じた。
きょうIEのニュースでジョブズ氏がアップルの社員にもソニーのような制服を考えたことがあったという興味深い記事があった。アップルの社員にもソニーのように制服をと考え、三宅一生にデザインしてもらって社員にはかったところ猛反対に遭って日の目を見なかったという。その時からジョブズ氏はひとり三宅一生デザインの黒いとっくりのセーターを着続けてきたのだそうだ。三宅一生デザインの黒いとっくりのセーターを100着は持っていたという。
このことから僕は2つのことを考えさせられた。一つは男の究極のファッションはジョブズ氏の黒いとっくりのセーターのようなシンプルな姿にあるのではないのか。ファッションショーなどでジョルジオ・アルマーニがいつも紺色のTシャツ姿で登場するのも男の究極のファッションはシンプルな装いにあるということを彼は自覚して表現しているのではないかということだ。着飾ったタレントや雑誌で人気の「ちょい悪オヤジ」に比べるとなんとストレートに訴求してくるではないか。
もう一つ考えさせられたのはソニーとアップルの違いだ。かつてウォークマンで世界を席巻したソニーは今や世界で勝負する新しい製品を何も送り出せずにいる。一方でアップルはiPod,iPad,iPhoneとたて続けにヒット商品を送り出して我が世の春を謳歌しているようだ。世界の中でソニーとアップルは完全にその地位が置き換わったといってもいいだろう。そこで思う。制服のソニーとそれを拒絶したアップルの違いを。