近くにある再開発によって誕生したビルにはデパートや商店などが入っていて、その一角に多目的のスペースがあり、毎日いろいろなイベントが開催される。今日はビリーバンバンのミニコンサート(無料)が行われていた。デパートから出るとき、足を止めた。なにしろ音楽が聞こえてくると、足が向く。狭いスペースで、200人ぐらいの聴衆であふれていた。
ビリーバンバンに関しては「白いブランコ」という曲を知っていること以外になんの知識もない。舞台の彼らを見ると、「白いブランコ」を歌ったころの若々しい姿ではなく、年を重ねた姿があった。聴衆はほとんど元青年たちばかりの様子だった。知らない曲を聴きながら、聴衆を見渡すと、なぜかいたたまれない気分になって、歌に聴き入ることはなく会場を後にした。
老いていく世代の塊の中に自分もいることを再認識するのがいやだったのだろうか。それともみずみずしい響きが感じられなくなった彼らの歌声を聴いて、決して開けてはならない扉を開けてしまったような気がしたからなのだろうか。そのときの気分は正確に表現できない。「時は容赦なく過ぎていく」という森有正氏の言葉をまたしても思い出した。帰宅して、ソニー・ロリンズの豪放なサックスの響きに耳を傾けると、やっとニュートラルな心理状態に戻ったのだった。