湯島の街角にある小さな公園で、目的地を確認するため地図を見ていると、ひとりの路上生活者が寄ってきた。日に焼けていて、にこにこしながらぼくに話しかけた。
「どうしてこんなにいろんな顔の人が多くなったのだろう。」
「?」
「どうして、みんな日本語をぺらぺらしゃべれるんだろう。」
「?」
彼の目に敵意はなく、僕の目をにこにこのぞき込む。どう返答していいかわからず、ぼくもにこにこして彼の目をのぞき込むしかなかった。この男との間でしばらく沈黙が続いた。近くではサラリーマンが携帯電話をいじっていたが、サラリーマンの顔つきよりもこの男の顔つきのほうがずっと健康そうで、東京に大地震が起きてもサバイバルできるのではないかと思えた。2~3分ほどお互いににこにこ見つめ合った後、彼は去って行った。
彼が去った後、映画『カッコーの巣の上で』を思い出した。あれほどにこにこした目を見たのは久しぶりだ。