自宅から近いJRの駅前での出来事だ。改札口から出てきためがねをかけた小柄なおばあさん(70歳ぐらい)が、ばたんと正面から前に倒れた。転んだと言うよりも倒れたという感じだった。「行き倒れ」とはこのような状態のことではないのかととっさに思った。「だいじょうぶですか?」と近寄って声をかけようとした時、そのおばあさんはよろよろと意外に元気そうに立ち上がった。怪我はない様子だった。脱げた靴を拾ってはき直し、照れ笑いのような表情を浮かべて、歩み去った。ゆっくりだがやっと歩けるようになってきた僕よりも、むしろ足はしっかりしている様子だった。
高齢化社会では、このようなことはこれからはごくありふれた風景になるのかもしれない。それにしても、このおばあさんの周囲にはサラリーマンや高校生など10人ほどの人がいたが、誰もすぐ援助の手をさしのべることはなかった。改札口にはJRの職員もいたが、とっさに駆けつけることはなかった。
かつて、ロンドンの街角で同じように人が突然倒れた現場を通りかかったことがあった。このときの周囲の人々の素早い反応や対応を思い出した。