正月に読んだ開高健の『輝ける闇』が印象に残ったので、その続編とも言えそうな『夏の闇』も読んだ。前者の主人公はベトナム戦争下で動き回るが、後者の主人公はその反動ともいえる怠惰な日常でひたすら眠ってばかりいる。とてもこの後者の主人公に感情移入などできない。しかし、この絶望的とも言える状況に、妙に心が動いたのだった。
たまたま、今日の日経の「奇縁まんだら」という連載のエッセイで、瀬戸内寂聴さんが、開高健とこの『夏の闇』のことについて書いていた。その中で、「この小説のヒロインはこれまでの日本の小説に書かれたどのヒロインよりも魅力的であった。」と書いている。
僕は、主人公の男の行動と感情の移ろいを追いながら読んたが、瀬戸内さんはヒロインのほうが心に残ったらしい。同じ小説を読んでも、男と女では視点が違うのかもしれないと思った。これは、新鮮な発見だった。