この人たちは東京のあちこちで見かける。きょうは家から近いデパートの前で演奏していた。日本人の若い男のミュージシャンなどもギターを片手に街角で演奏している光景に出合うが、そのような場所ではその稚拙な演奏を聴くこちらの方が恥ずかしい思いがしてしまい、僕は決して立ち止まることはない。足早に通り過ぎる。しかし、このインカの音楽を演奏している人たちの前を通ると、どうしても通り過ぎることができない。立ち止まっていつも耳を傾ける。
ケーナの音色は優しく心にしみこむように響く。目をつぶって聴いていると、インカの澄み切った青い空がまぶたに浮かんでくるような気がする。羽根飾りの衣装を着けた右端の男が、この後で鳥のように舞い踊る姿を見て、きょうはその衣装の意味が初めて理解できた。
きょうの人たちとは当然別の人たちだったと思うが、初めて聴いたのはずいぶん昔のニューヨークの街角だった。マンハッタンのビルの谷間に響き渡るインカのメロディーがとても新鮮で心が洗われるように感じたことを思い出した。